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楽園の残響(下)

2015年4月発表 14曲収録



「楽園」シリーズの2作目として制作した、(上)に続くアルバム。
元々1枚に収録するつもりだった時点で作成済みの曲に数曲を加えて録音した。
録音時期が曲ごとにかなりバラけている為、サウンドも曲ごとに違いがある。

収録曲:
01威風
02夕闇への帰還
03廃棄惑星
04麻薬帝国
05軌道エレベータ
06栄光の天文艦隊
07振り子都市崩落
08生存パルス
09鋼鉄騎士船団
10再起の旅路
11悲劇への再突入
12そして私はその階段を昇った
13楽園の残響
14微睡

曲目解説

威風
 
 威風堂々、静々と宇宙を進む巨大艦の群れ。物言わぬその鋼鉄の横顔には、歴戦を物語る無数の傷が。
 彼らが目指す先は四季星系第五惑星:冬の星。星系で唯一といってよい大規模な軍備を備えた自治組織が存在する、彼らの巣である。

 

夕闇への帰還
 
 かつての機械文明との闘争時代、この四季星系への入植間際に第五惑星”冬の星”が鉄の香りと共にある種の繁栄を築いた、その時代から百数十年。 四季星系の外れ、冬の星から飛び立つ艦隊が目指すのは、人の立ち入らぬ小惑星や衛星、廃棄された大規模施設など、 闘争を逃げ延び、未だにひっそりと数を維持、ときに複製によって増大させている自動機械の巣だった。
 放って置けば数を増やし、やがて襲ってくる自動機械を未然に発見し、無力化する。 その為に莫大なリソースを注ぎ続けたことで財政は圧迫され、星系の経済から置き捨てられつつあるのが現在の冬の星だった。
 この”芽を摘む”作業を怠れば、いずれ星系全体が闘争時代に逆戻りする危険が残っているにもかかわらず、 目立つ被害が減ってくると、いつしか他の星からは疎ましがられるようになり、戦費を要求して罵られることもしばしば。 母星の悪化する経済状況に足をとられ、棺を抱えての帰還も珍しくない。
 過去から続く、いつ果てるとも知れないこの戦いの中、無力感と戦い続ける艦隊は、いまひと時の安らぎを求めて、 恒星から遠く離れた母星の、鉄の大地の薄闇に、疲れ果てて帰還する。

 

廃棄惑星
 
 どこまでも岩石と砂で覆われた大地と毒々しい色に染まった僅かな海。分厚い大気は熱風となり砂を吹き飛ばす。
 入植に失敗し廃棄された惑星の俯瞰。(下)の物語のメインの舞台となる”砂の星”はかつての闘争時代には機械文明側の最後の砦だった。
 闘争が終わり、星の施設は人間に明け渡されたが、それから注がれた莫大な資金にもかかわらず、資源と環境のサイクルは軌道に乗らなかった。 やがてこの星は、大きなコミュニティを形成した他の惑星に人的資源を奪われ、最後には星系の流通から外れてしまう。
 しかし最後までこの星に投資した資金をあきらめられなかった一部の人間は、星に残された唯一といって良い巨大建造物=軌道EVの地上側ステーションを”振り子都市”として拡張し、 星から脱出できなかった貧しい入植者達と外界との流通を押さえ、そこから資金を回収する仕組みを確立した。
 どこに潜んでいたのかいまだに地表を徘徊する自動機械と強烈な恒星の光を逃れて入植者達は地下空洞にスラムを築く。
 こうして目出度く、太古から続く奴隷と支配者の構図が再構築されたのだった。

 

麻薬帝国
 
 栄光の天文艦隊にカップリングして14年秋M3で頒布。地下に広がるスラムを歌ったもの。コンセプトの解説はそのときに配ったペーパーをご参照。
 ストーリー的にこの曲の後にミリアと、ブレインスマッシャーを生み出した実父トレヴとの邂逅があったけど、 曲数的に間に合わなかったので展開を色々混ぜ込んで、ドタバタがあったという事だけ。
 シングルとして頒布した時の音が気に入ったので、アルバムのマスタリングは全てこの曲のセッティングを元にしている。

 

軌道エレベータ
 
 ミリアは薬の出所を突き止めトレヴとの邂逅を果たしたが、母の圧倒的な力に屈服することになり落ち込んでいた。
一方のボールドも、あれやこれやの立ち回りを演じた挙句、確たる物証を得られぬまま星を去ることに。
 しかしロケットなどという気の利いたモノはこの星には無い。 重力井戸から這い上がる方法は唯一つ。老朽化した旧式の軌道エレベータのみ。闘争時代末期に建造され、星が廃棄されるその日まで運用を続けられた最後の一基。
 彼女達を乗せた巨大なコンテナは、天から垂れるケーブルを伝ってじりじりと空へ登ってゆく。
 ミリアは落ち込み気味だったが、星での出来事を話すとボールドは徐々に顔に生気を漲らせてゆく。
 重苦しい重力と暗い世界に打ちのめされたものの、そこから解き放たれて、宇宙に戻ってきた事で次の行動を起こし始めたボールド。
彼はかつて冬の宙域で麻薬運搬船を拿捕した際に、その薬の作用とメルポメーネの政治力によって引き起こされた理不尽な一連の出来事によって軍を追われた身だった。
 その後の何年にも及ぶ潜伏の末、遂に今、彼女を六角塔の玉座から引き摺り下ろし、自らの潔白を証明する機会を掴もうとしているのだ。
 古巣である天文艦隊への復帰を確信し、ボールドはメルポメーネの娘と共に、宇宙に浮かぶ、あのトラックターミナルに今、到着した。

 

栄光の天文艦隊
 
 アルバムからの先行頒布として14年秋M3で頒布。麻薬帝国と同様、コンセプト解説は当時のペーパーを参照。
 先行頒布時にイントロを聴いた友人に「聖闘○星矢かな」と言われて気づいた。あ、コレそうだわ。凄くそれっぽい。だがいいぞ。それで合ってる。
 他の曲とのバランスもあり、シングル盤から大分音質を直したので、もう一度新しい曲として聴いてもらいたい。コスモを感じつつ。
 ドラムのチューニングが他の曲と比べて差が大きかったのは反省点の一つ。

 

振り子都市崩落
 
 冬の艦隊の動きを察知したメルポメーネの代理人形:フィードバッカーは、ブレインスマッシャーの流通経路と麻薬帝国の証拠を隠滅する為に指示を出し始める。
 母の思考を嫌と言うほど知っているミリアはフィードバッカーからの情報を受け取った母が最終的な意思を示せば、 振り子都市とその直下の地下空洞に広がるスラムは灰燼に帰すと確信し、ボールドの制止を振り切って再び地上へ。
 フィードバックシステムがメルポメーネからのコマンドを受け取る前に、惨事から皆を救わねばならない。
地上を駆けずり回って避難を呼びかけるが、しかし全て遅すぎた。
 間に合わない!間に合わないよ!という焦燥感をあざ笑うように、目の前で崩壊する振り子都市。
 振り子都市はそれを吊るしていた天から垂れる蜘蛛の糸を断ち切られ、堕落した支配者達を宿したままスラムの上に墜落する。
 轟音と黒煙に包まれて醜悪な都市と貧民窟は瓦礫に埋もれてゆく。

 

生存パルス
 
 スラムの中心が崩壊しただけでは悲劇は終っていなかった。それまで地表を徘徊しながらも何故か地下へは侵入してこなかった自動機械が、 振り子都市墜落後に瓦礫と共に地下に流れ込んだのだ。
 実は自動機械は行動範囲の基準点を振り子都市に設定されていた為地下への移動が制限されていたのだが、 垂直方向に落下した為にそれまで範囲外だった地下が行動範囲に含まれるようになったのだ。 つまり、自動機械は通常そうであるようにただ暴走していたわけではなく、何者かに制御されていたのだった。
 地下都市からトンネルを通って避難したスラムからの生き残りは、自動機械から逃れて巨大な円筒系の竪穴の底で身を寄せ合っていた。
その竪穴は、故障して水を抜かれた藻の培養槽で、地表に当たる最上部は太陽光を取り込む為に透明な板で覆われていた。
 遠くから巨大艦が大気圏内で空気をかき乱す音が響いている。ボールドの通報により自動機械を駆除する名目で冬の艦隊が重力井戸に降下してきたのだ。
しかし、日が沈んだ後もそこかしこから自動機械が徘徊する音が止まず、人々は艦隊に発見されることも出来ないまま、ただおびえた顔で息を殺していた。
 だがミーリアはボールドが自分の身を必要としていることを知っている。彼は、そして冬の艦隊はメルポメーネを断罪する為に必ず自分の証言が必要なのだ。
 彼らは必ず自分を探している。そしてボールドは言っていた。彼がかつて所属していた天文艦隊は、範囲さえ絞り込めば大気圏外からでも自動機械の動向を走査できると。
 ミリアは人々に提案する。「このまま隠れていても死ぬだけ。大声で騒げば、天文艦隊に発見して貰える。」だが自動機械が立てる音にかき消されるのでは?
「艦隊も耳を澄ませている筈。声を上げ続ければ、きっと。」ロベリアが立ち上がる。「それなら歌を歌おう!皆が知ってるやつを。」
 管理室を漁って見つけたありあわせの機材で彼らは歌い始める。流行りの歌を。酒場でボールドも共に聴いた歌を。
 響くメロディに引き寄せられた自動機械が鉄扉をこじ開ける。それを押し返し、途切れかけた歌を繋ぐ。
 その歌声が、彼らの生存を知らせる儚いパルスなのだ。

 

鋼鉄騎士船団
 
 崩落した都市とスラムから程近い、古びた藻の培養施設の廃墟から響く歌声は、衛星軌道上の天文艦隊によって検出され、 その歌声にメルポメーネの娘が含まれていることが確認された。彼女の身を確保すべく、艦隊は救出部隊に指示を出す。
 救出に向かうのは傭兵部隊「鋼鉄騎士船団」。彼らは退役した艦隊の元軍人らで組織され、小型船で構成される小規模な宇宙船団だった。
 大規模な破壊兵器を使えないミッションにおいて自動機械と白兵戦を行う彼らは、小型船で重力井戸の底へ降下して任務をこなし、宇宙へ脱出するのだ!
 命知らずの漢達は船を砂の大地に荒っぽく着陸させるやいなや、パワードスーツで瓦礫を押しのけ、炎をかいくぐり、 チェーンソーを振り回して自動機械を片っ端からちぎっては投げ、ちぎっては投げ。そして涙目の避難民に笑顔でサムズアップ。滴る汗と輝く歯。実際強い。

 

再起の旅路
 
 見える限りの自動機械が全て駆除されても、山積する問題が解決したわけではない。 生き残った人々を難民として扱おうにも、財政的にも余裕の無い冬の星が、星系の端から端まで都市二つ分の人間を運搬し、養うことは不可能だった。
 結局彼らは自らの手で瓦礫の山から生活を再建させなくてはならないのだ。
人的被害は言うに及ばず、唯一の物資の入手経路だった軌道EVは破損し、有機物サイクルに不可欠な藻の培養槽も幾つかが稼動を停止した。 違法な薬物の製造元として糾弾されることもありうる。
 支配層として搾取する側だった人々にも生き残りが居たが、スラムの住人に捕まった者は私刑にかけられ、溝は埋まる気配もない。
 それでも、ここから始めるしかないのだ。

 

悲劇への再突入
 
 艦隊に護送され、ミリアは娯楽の星の衛星軌道に戻ってきた。
上水施設や食品製造会社で混入させたブレインスマッシャーの効果をトリガーとなる音波で発現させることで人の心を操ってきた母メルポメーネの影響力は、 娯楽の星のみならず、秋の星の中心地や春の星、夏の星の一部にまで及んでいた。
 ブレインスマッシャーを生み出した父の策略によってそれに耐性のある体を持って生まれていたミリアは、ボールドらの要請によって母メルポメーネを捕縛し法の下に裁く為、 六角塔に戻ろうとしていた。しかし宇宙港から笑顔で帰還、というわけには行かない。
 メルポメーネは娘が艦隊によって拉致されたと喧伝し、一方の艦隊はブレインスマッシャーの密造と濫用の疑いでメルポメーネを捕らえようとしていた。
 ミリアの身柄を巡って星の上空で警備と睨み合う艦隊。無理に突入すれば星間問題になり、メルポメーネの政治力によって打撃を受けるのは間違いない。 メルポメーネはミリアと引き換えに面会に応じるとしたが、ミリアを引き渡せばキーパーソンである彼女の精神はメルポメーネの手に落ちるだろう。
 重苦しい雰囲気の中、ミリアはボールドに自分の身を母に引き渡すように頼むが、ボールドはそれを拒否。 話し合いが決裂した末、彼女は身に着けていた非常用宇宙服を展開させるや否やエアーロックを開け放ち、呆然とするボールドらに一瞥をくれると、 衛星軌道から地表に向かってダイブ。一瞬の間に彼らの目前から姿を消した。
 地表に向かいまっさかさまに自由落下してゆくミリア。 艦隊の腕にも警備の網にも捕らえられぬまま、加速しつつ落ちてゆく体は炎に包まれる。
 その炎は小さな流星となって光り輝き、そして消えた。

 

そして私はその階段を昇った
 
 メルポメーネは六角塔に併設された歌劇場の舞台に立っていた。娘の消息が途絶えて間もなく、まだ上空には冬の艦隊が居座っているにもかかわらず、 メルポメーネはここから星系全土に向けて以前から予定されていた曲目の上演を開始する。
 悲しみと不安を押し殺し、己の情熱に忠実なその姿勢に人々は賞賛の声を惜しまない。だがその上演は精神支配を強める為の信号を送るのが目的だった。 体内に入り込んだブレインスマッシャーはメルポメーネの歌に乗せられた信号に応じて脳に働きかけ、その警戒心を解きほぐし、やがて意思を捻じ曲げる。
 これまで彼女の支配体制は安泰だった。とうの昔に大抵の問題は解決済みなのだ。
娘が消えた以上、厄介な艦隊も他の星からの圧力で薄暗い巣に戻るだろう。振り子都市を失ったのは痛いが、薬工場ならまた作ればいい。あとはトレヴさえ押さえれば。  演目が人々を魅了し始めた頃、曲と曲の間に一瞬訪れた静寂の中で、舞台正面の客席背後の扉が勢い良く開かれる。
 そこに立っていたのはまさにメルポメーネの娘ミリアだった。
最高の耐熱素材とエアバッグ、そしてメルポメーネによって注がれてきた不死の技術が、彼女を炎と衝撃から守ったのだ。
 驚きに凍りつく劇場。靴音を響かせて舞台の下へ進んでゆくミリア。  衆目の手前、メルポメーネはミリアの名を叫んで駆け寄らざるを得ない。舞台から伸びる階段の途中でミリアを抱きしめるメルポメーネ。
「どこへ行っていたの!」それは本当に知りたいことだった。砂漠の星でどこまで掴んだのか。トレヴとは会ったのか。 特別調合のブレインスマッシャーをふんだんに含んだ涙を涙腺から分泌させ娘の皮膚に付着させる。吐息にも薬を含ませ、 さらにリモートで空調を操作し、空気中の薬の濃度を上げる。これで優しい言葉でもかければ娘はすぐに私の手に落ちるだろう。
 だが、そもそも何故このような反抗的な態度をとることができたのか。薬の投与は十分だったはず・・・。
「母さん、ごめんね。」疑問は解けないまま腕の中の娘を見ると、その手には一つの花束が。「これ、父さんから。」
 その花の匂いを嗅いだとたん、メルポメーネの脳裏にトレヴと過ごした日々の記憶が鮮明に蘇る。懐かしい幸せな日々。 今のように神経を不安にすり減らすことも無く、愛を信じることが出来たあの頃。ああ、戻りたい。
 いや、これは、おかしい。まさか。掻き消えてゆく冷静さがメルポメーネの腕を跳ね上げさせる。 あふれ出る幸福感を無理やり跳ね除け、腕を振り下ろそうとしたとき、その郷愁に響く娘の声。

「愛していると、言ってたわ。」

一瞬にして魂を篭絡されるメルポメーネ。ミリアが手渡した花にはトレヴ自らが調合した最新のブレインスマッシャーが染み込ませてあったのだった。

 階段に落ちた花を追ってその場に崩れ落ちるメルポメーネ。その肩を支えた手をそっと放し、ミリアは立ち上がる。
 背後の開け放たれたままの客席の扉にはトレヴが居るはずだ。メルポメーネをトレヴに渡すことが彼との取引の条件だった。 二人についての後のことは舞台の下でやって貰おう。足元でメルポメーネが泣き声を上げている。始めて聞く、激情を露にした声。
 ミリアは後ろを振り返らず、上を見上げる。この演目なら知っている。幼い頃からどうすれば良いか知っている。
 後は私が引き継ぐのだ。崩れかけた楽園を。そして彼女はその階段を昇った。

 

楽園の残響
 
 数十年にわたって四季星系の要人を骨抜きにし、富と権力を欲しいままにして来た「歌の星」の女王メルポメーネ。 しかし大衆には六角ビルの優秀な経営者であり神秘に包まれた輝ける歌姫としての姿しか知られていない。
 一人娘が身代金を目的に誘拐された際、事件の解決の為独断で強硬な手段をとった挙句犯人を取り逃がした冬の艦隊との間に軋轢が生まれたとされる。 この誘拐事件を切っ掛けに、外交上の責任を取り舞台から引退を表明し、精神的な疲労を理由に人前から姿を消した。
 娘ミリアの身柄の引渡しについては部外者にとって謎が多く、引渡しがあったはずの日に冬の艦隊からは一隻も船が歌の星に着陸していないことから、 誘拐事件自体の存在を疑う者もいた。
 冬の艦隊はこのとき数日に渡って星の上空に陣取り続けたが、秋の星が仲裁に入ると渋々母星に帰還した。
 メルポメーネの担っていた諸々の仕事を引き継いだのは娘のミリアだった。 誘拐事件そのものに対して世間では様々な憶測が飛び交うも、 事件の渦中にも関わらず、星系全土に中継される中、安堵に泣き崩れる母に代わって中断した演目を歌い上げた様子は人々の胸を打った。
 ほどなくメルポメーネの地位を完全に我が物としたミリアに人々は熱狂する。かつてのメルポメーネの輝きが霞むほどに。 その名声は星系にあまねく響き渡り、各惑星の要職に就く者は皆、競うように彼女に謁見を求めた。
 彼女は星系全体の女王となった。唯一匹の女王蜂。
 もはや彼女は歌わない。その必要が無かった。言葉を放てば皆その様にするのだから。歌は残響となり消えてゆく。
 この星系の全ては彼女の手の内にある。ただ冬の星を除いて。
 

微睡
 
 母の欺瞞に満ちた栄華を嫌っていたはずが、自らもその轍にはまり込んでいることに気づきながらも抜け出せない日々。 拡大する権力に溺れ、内面の矛盾を気取られないようさらに嘘を塗り固める日々は、ミリアの精神を削り続けてゆく。
 幾つもの扉で厳重に外界から隔てられた驚くほど質素な部屋に、星系の支配者は疲れ果てて帰り着く。 ただ眠りたい。まどろみの中で悪夢の予兆を感じながら、彼女の意識はほどけてゆくのだった。
 





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